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0点の自分で甘えたい

朝ごはん

お題「朝ごはん」

 

朝ごはん。

一人暮らしをする前なら、すかさず母の作ってくれる朝ごはんが思い浮かんだろうけどかれこれ一人暮らし生活も丸6年。

1人知らない土地に身を置き、1人でごはんを食べることがほとんどだけど、友達だったり当時の彼氏だったり一緒に朝の貴重な時間を少しは過ごしたりもした。

 

今、朝ごはん、ってワードで思い浮かぶのは近所の喫茶店でのモーニング。徒歩20秒くらいの距離にある。

最近は夜が明けるのもまだまだ遅いから、6時開店のこのお店の異常に明るい看板は途轍もなく光を放っている。スナックの看板みたいに明るい。coffee coffeeって文字が並んだそれ。

 

見た目は本当に古びれている。でも通るたびにコーヒーの匂いがして、誘われている気がする。あまりにいい匂いでお店の外のどこからその匂いが運ばれてきているか、何となく知っている。頭は良くないが、昔から鼻はいいのでわりとすぐに分かる。

 

その古びた喫茶店、決して1人では何故か行けなかった。カフェ慣れしてても、喫茶店慣れしていない。年齢や世代の違いだろうか、これまでの人生の違いだろうか。

 

そんなある日、当時付き合っていた彼が急に私をそこへと連れ出した。

 

行きたい行ってみたい、そんな事この人に話した事あっただろうか?と記憶を辿ったがやはりない。でもどうやら行きたい気持ちは同じだったようで、『こういうところのモーニングが好きなんだよなぁ』なんて呟いていた。

 

トースト、ゆで卵、サラダに赤ウィンナー、バナナにヨーグルト。

そのどれもが朝ごはんに最適ななんとも言えない量感で一枚のトレーに乗ってやってくる。大好きな、あのいい匂いの、あったかいコーヒーと共に。

 

モーニングの時間帯にはテレビではなくラジオが流れている。週末日曜の朝にしか聴けないラジオDJの声。おじさんが読むスポーツ新聞をめくる音。こんな早朝から何をそんなに話すのかと言わんばかりに話続ける中年の女性2人の声。彼女たちは行くたびにいる。つまり私たちも同じだけそこにいる。一緒なのだ。

こんないろんな音の中で、ゆるりくらりとひたすらに食べ進め、たまに『赤ウィンナーっていいよね』なんて声を掛け合う。大人になり食べる機会が減ったせいか何度食べても私たちは赤ウィンナーに心ときめいている。そのシーンを今思い出しても何だか少し笑える。誰にでも分かる簡単な言葉を並べて、共感し合っている自分たちの姿に。

 

そしてあったかいコーヒーで一息つく。

『今日はどこへ行こうか?』休みの日、彼はだいたい私にそう尋ねる。

『今日休みならこのままもう一眠り出来るのにね』出勤の日、彼は私に言うように独り言みたいにそう呟いていた。

 

お店を後にし、たった20秒の距離を手を繋いで歩く。お腹を満たした瞬間、私達は堪らなく幸せを感じている。だって彼の顔がツヤッと、フワッとしている。分かりやすくて、可愛くて、少年のようだった。

 

 

最近はもっぱらその喫茶店とは疎遠になっていて、お店の前を通るのも少し気が引けた。もう彼がいない。その喫茶店もあるようでないようなものになってしまった。

しかしどういうことか堪らなくそこへ行きたくなり、お昼に行ってみたのだ。と言ってもランチのラストオーダーを取り終えそうな時間だったこともあり入店してもお客は1人だった。

 

いつもの席に着き、注文を終え、ただ、ただひたすらに運ばれてくるのを待っていた。運ばれてきたハンバーグを食べ、お昼も美味しい。なんて思いながら食べ進めても、どうも心が満たされなかった。ずっとここの朝ごはんが好きだったのに。食べながら考え続けた。

 

店を出て、今日もたった20秒の距離を歩く。もちろん1人で。

その時にやっと気づいた。

あの店の朝ごはんがただ好きだけではない。彼とあの店の朝ごはんを食べることが好きだった、というのとに。

 

 

味気なかった、目の前に彼がいないテーブルで食事をすることが。

寂しかった、これが美味しい、なんてもう言い合えないことが。

 

 

夜ごはんよりも、朝ごはんを一緒に食べれることのほうが何倍も何十倍も特別な気がする。

1日の始まりを一緒に過ごす、日常生活の中でこんなに素敵で特別なこと他にはあるだろうか、そんな風に思えて仕方ない。

 

 

 

そんな朝ごはんの話。

 

 

 

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